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電炉とは?高炉・転炉との違い

電力の発展と共に、私たちの生活に多大な影響を与えたエネルギーの利用方法の一つが、電炉です。しかし、その名前を聞いても具体的な姿や役割をイメージできない方も少なくないでしょう。

電炉は鉄鋼業などの産業において欠かせない存在であり、高炉や転炉と対比してその特性を考察することで、その重要性がより明確になるでしょう。

この記事では、まず電炉とは何か、実際にどのような違いが高炉や転炉との間に存在するのかを詳しく解説します。それぞれの特性を理解すれば、鉄鋼業界の動向を把握するための一助となるでしょう。

電炉(電気炉)とは

“電炉”、または電気炉は、多種多様な加熱用途に活用される電気機器であり、製鋼や製造工業、科学実験などに不可欠な機器として働いています。その主な用途は、物質を電力を用いて加熱することで、特に製鉄業においては電気から熱への変換を利用し、鉄や鋼を溶かすために使用されます。

電炉製鋼は原料に鉄スクラップを用い、放電熱やアーク放電によって融解し、不純物を取り除く行程によって鋼が生まれます。通常の製鋼方法が鉄鉱石や石炭、石灰石を使用する高炉と異なり、製銑工程が不要で、二酸化炭素の排出も少ないため、より環境負荷が低いという利点があります。

難点としては、鉄スクラップに含まれる不純物により成分調整が難しく、製品の加工性が高炉製鋼のものと比べ劣るという意見もあります。しかし、近年ではその技術改良が急速に進み、不純物を効果的に利用する新しい手法も登場しています。

鉄スクラップを原料にするためのリサイクルは地球環境負荷の軽減という面でも、その注目度が増しています。また温度調整が容易で、燃料使用に比べてクリーンな熱源ともされる電炉は、電力供給や電力費が問題になることもありますが、その効率向上や再生可能エネルギーの活用への取り組みが進められています。電炉の利用範囲は今後さらに広がり、製鋼技術として、更に重要な存在になっていくと期待されています。

高炉とは

高炉という言葉を耳にしたことがありますか?この用語は通常、鉄製品の製造に関連しており、その主な用途は鉄鉱石から鉄を抽出するための装置です。従って、高炉は日々私たちが使用する多くの製品の製造に重要な役割を果たしています。

では具体的にどういうものか、詳しく見ていきましょう。高炉とは、鉄鉱石と共に酸素と燃料(主にコークス)を加え、約1,500℃まで熱せられ、鉄を抽出する大掛かりな装置です。その名前「高炉」は、その温度の高さが特徴的であることから名付けられました。またこの製鉄の過程は、「高炉製鉄法」とも呼ばれています。

高炉の設計は細長い形状で、その頂上に向かって螺旋状に立ち上がるコンベヤーから鉄鉱石とコークスが交互に投入されます。コークスは炉の底から送り込まれ、熱い風や酸素と反応して一酸化炭素や水素などのガスを発生させます。この上昇する温かなガスは、鉄鉱石を溶かしながら酸素を奪います。この過程で出る一酸化炭素は燃焼させ、火力発電を行い、製鉄所の電力供給に用いられます。

ただし、この鉄を作る過程で大量の炭素が溶け込むため、鋼の不純物の割合が高くなったり、地球温暖化につながるガス排出が問題となります。

日本では、新日鐵住金や神戸製鋼といった製鉄大手が、この高炉を使用した鉄の製造を行っています。まさに、高炉の鉄は、私たちの生活の様々な部分、デジタルデバイスから建設業までを支えていると言えるでしょう。

転炉とは

転炉というのは製鉄・製鋼プロセスの一部で、役割は二つあります。

一つは、「脱炭」という工程で、高炉から得られた生鉄から不必要な炭素を除去することです。具体的には、生鉄内に存在する約4%の炭素を転炉内で氧化・燃焼させて、鉄を溶鋼へと転換します。これにより、鋼の粘りが増し、結果として、その品質と信頼性は格段に向上します。

もう一つの主な役割は、生鉄に含まれるその他の不純物の除去です。この工程では、高圧の酸素が生鉄内の炭素だけでなく、シリコンやマンガンなども反応させ、それらを燃焼します。そして、この反応の過程で生じる不純物は、石灰と混ざり合ってスラグとなり、このスラグを取り除くことで短時間、約20分ほどで鋼へと転換するのです。

転炉は、鉄を精製し、我々の日常生活で使用する各種製品へと変化させるための中心的な装置として、確かな技術と理論が必要とされます。

高炉から電炉へのシフトとは

高炉から電炉への製造にシフトしていっている点について、詳しくみていきましょう。

日本の電炉比率

長年、日本の鋼鉄業界では高炉製鋼が4分の3を占めるほど主導してきました。これは、アメリカとは大きく異なり、アメリカの鋼生産量の71%が電炉製鋼で占められている事実と対照的です。

それに加えて、多くの高炉製鋼メーカーが存在するEU(業界再編によるメーカー数の減少はあるものの)では、電炉の使用率は42%と、日本と比べて17ポイント高い状況にあります。

その一方で、中国では電炉比率が9%と低いですが、これは鉄スクラップの供給量が少なく原材料となる炭の産出量が多い、また電力供給が不安定な事情が関わっています。

こうした背景から見ると、日本では電炉製鋼がまだ広く採用されていない現状が見て取れます。しかし、環境制約が厳格化し、CO2排出を抑制する必要性が高まる中で、スクラップ鉄を原料とするCO2排出量の少ない電炉製鋼へのシフトが進行中です。

主要な鋼鉄メーカーも電炉製鋼への変更を戦略の一部として明言し、早期の移行を試みる動きが見られます。また、政府も電炉製鋼を地球温暖化対策の一手段として支援しており、こうした流れはさらに加速していくと予想されます。

それゆえ、今後日本の鋼鉄業界に求められるのは、全体の持続可能性と並行して製鋼プロセスを再編することであり、特に「高炉から電炉への転換」はその象徴的な取り組みと言えるでしょう。

電炉による生産比率が上がらなかった理由

日本の鉄鋼業界で電炉を用いた生産が増えてこなかった主要な要因は二つ存在します。

一つは、企業が高炉に大きな投資を行っており、これを規定年数で減価償却かつ投資コストを回収するため、新たな電炉への投資は躊躇されてきたという財務面の問題です。これには、電炉設置に伴う新設設備投資やオペレーションコスト、さらには電力代などが関連しています。

もう一つは、生産効率と大量生産を重視する企業規模の問題です。高炉は大量効率の鋼の製造が可能である一方、電炉は一度に製造する量が少なく、小規模な設備での生産に適しています。大手鋼材ユーザーである自動車産業など、大量生産体制を維持したい企業にとっては、この電炉への切り替えは挑戦的な課題であると言えます。

これらの理由から、電炉の採用率は大幅に上がっていない現状があります。これを改善するためには、エネルギー供給システムの効率化、設備投資の合理化、既存設備の有効利用に取り組むことが必要だと考えられます。

電炉のメリットとは

電炉を使用することのメリットはいくつかあります。以下に主なものを挙げてみましょう。

  1. 環境に優しい:電炉は、化石燃料を直接燃やさないため、二酸化炭素やその他の有害な排出物を大幅に削減できます。これは、地球温暖化や大気汚染の問題に対処する上で重要です。
  2. 高効率:電炉はエネルギーの変換効率が高く、同じ量の熱を生成するために必要なエネルギーが少なくて済む場合があります。これにより、運転コストを削減できる可能性があります。
  3. 温度制御の精度:電炉は、温度の制御が非常に正確で、微妙な温度調節が可能です。これは、特定の材料を扱う際や特殊な加工を必要とする場合に非常に有利です。
  4. クリーンな作業環境:燃焼による煙や灰がないため、作業環境がクリーンに保たれます。これにより、製品の品質向上につながることがあります。
  5. メンテナンスの容易さ:電炉は部品が少なく、構造が比較的シンプルなため、メンテナンスが容易であり、長期間にわたって安定した運転が可能です。
  6. 柔軟な設置オプション:電炉はガスや石油を必要としないため、設置場所の制約が少なく、都市部や電源が利用しやすい場所での使用に適しています。
  7. 安全性:火を使わないため、火災のリスクが減少します。また、有害ガスの排出がないため、作業者の健康リスクも低減されます。

電炉のこれらのメリットは、特に製造業や研究開発など、高品質でクリーンな環境が求められる分野で価値があります。しかし、電炉を使用する際には、電力の供給源やコスト、設備の初期投資など、考慮すべき他の要因もあります。

 

 

電炉の課題とは

電炉の使用には多くのメリットがありますが、課題やデメリットも存在します。ここでは、電炉の一般的な課題について説明します。

  1. 高い初期投資:電炉の設置には、通常、ガス炉や石炭炉に比べて高額な初期投資が必要です。これは、特に小規模な事業者や予算に制約のある組織にとって大きな障壁となることがあります。
  2. 電力コストの依存性:電炉の運転コストは、利用する電力の価格に大きく依存します。電力価格が高騰すると、運転コストも増加し、経済的な負担が大きくなることがあります。
  3. エネルギー供給の安定性:電炉は電力供給に完全に依存しているため、電力の供給が不安定な地域では運転に影響が出る可能性があります。停電や電力供給の制約は、生産性に直接影響します。
  4. エネルギー源の環境影響:電炉が環境に優しいとされる一方で、使用する電力が石炭や天然ガスなどの化石燃料によって生成されている場合、間接的に環境への負荷が生じます。再生可能エネルギーからの電力供給に完全に依存しているわけではない場合、環境への影響は無視できません。
  5. 大規模生産への適用性:電炉は比較的小規模な生産に適していますが、大規模な生産には適さない場合があります。大量生産を要求される業界では、電炉よりも大容量の炉が必要になることがあります。
  6. 技術的課題:特定の材料や特殊なプロセスに対応するためには、電炉の設計や操作に高度な技術が求められる場合があります。適切な専門知識がないと、効率的な運用が難しくなります。
  7. 熱効率の問題:特定の条件下では、電炉の熱効率がガス炉や他の燃焼式炉に比べて低い場合があります。これは、特に熱エネルギーの大量消費を伴うプロセスで問題となることがあります。

これらの課題に対処するためには、技術革新、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーへの移行加速などが必要です。また、電炉の運用を最適化し、全体的なコストを削減するための継続的な努力も求められます。

まとめ

電炉は電気を熱源とし、鉄鋼生産に用いられます。高炉と転炉と比べると、電炉は環境負荷が低く、フレキシブルに操作できるメリットがあります。一方で、初期投資が必要であるなどの課題もあります。このような特性を把握することは、鉄鋼業界への理解を深める上で重要でしょう。