【特別インタビュー】デジタルと人間性が融合する時代へ「“はたらく”に歓びを」掲げるリコーの新たな挑戦(前編)
株式会社リコー 先端技術研究所 HDT研究センター
事業開発室 UX開発グループ エキスパート 中川 淳 (写真左端)
中川様ご紹介文~~~~~~~~~
事業開発室 システム開発グループ 日本VR学会認定VR技術者 鈴木 友規(写真左から2番目)
鈴木様ご紹介文~~~~~~~~~
近年、耳にする機会が増えた「人的資本経営」という言葉。企業の持続的な成長のために人材をコストではなく資本と捉える考え方だ。
まだまだ苦戦している企業が多いように思う。真っ向から立ち向かうのがリコーだ。
OA機器に始まり、お客様の“はたらく”に寄り添ってきたリコーは2036年のビジョンとして「“はたらく”に歓びを」を制定した。
それを技術で支えるのが先端技術研究所のHDT研究センターである。
今回はHDT研究センターの実態と画期的なサービスについて前編/後編2度にわたってお送りする。
①Human Digital Twin at Work構想とは
「ヒューマンデジタルツインを仕事の現場に応用しようということで命名しました。」
そう語るのはHDT研究センターの中川氏だ。
中川氏によると、Cyber-Physical-Human Systems(CPHS)と呼ばれるヒトとシステム間の相互作用を研究する分野が存在しているが、その中でも特にヒトに関するデータを活用する風潮は弱いことに着目し、2021年にHDT研究センターが発足された。
ヒューマンデジタルツインのコンセプトは、人の感情や行動などのデータを解析し、どういう状態にあるのかを可視化して、上手にパフォーマンスを出せる方法を提示することを
働く現場に応用することで、ヒトが「創造的な仕事をする」ためのサポートを行うことに役立てるということにある。
最終的には、1人1人が感謝・貢献を実感でき「働くことが楽しい」社会の実現を目指していくという壮大なミッションに取り組んでいるのだ。
②サービス開発は地道なことも厭わない
実際にはどのようなやり方でサービス開発につなげているのだろうか。
中川
『リコーがこれまで培ってきたセンシングやイメージング、そしてAIの技術を活用しながらもニーズはどこにあるのかを捉えて社内の困りごとの解決から図りました』
これまでシーズベースで新たな技術を利用してサービス提供をいくつも行ってきて上手くいなかった事例が多々あるということを見つめなおし、徹底的にお客様の困りごとはどこかという指向性で研究開発を行っているという。
当然、競合分析を行い、リコーならではの視点を入れながらサービス開発を行うことと、自社だけで活動するのではなく、オープンイノベーションという形で他社と連携することも模索している。
また、HDT研究センターは技術系の人で8割構成されているようだが、展示会出展やウェビナー開催を行い、顧客の生の声を聴くことも欠かさず行い、地道な営業活動も行っているという。
企画しているサービスは30にも上り、それぞれ単独のチームで活動しているようだが、その中でも現在サービス化にいたっている代表例が「1on1の対話トレーニングシステム」(以下、1on1トレーニング)と「朝礼診断ソリューション」(以下、朝礼診断)だ。
③自社研修課題から生まれた、質の高い1on1トレーニング
中川
『これまで座学だけでは身に付きにくかった1on1のやり方をどうやったら効果的に習得しやすくなるのかという人事課題から着想にいたりました』
リコージャパンの人事部門とディスカッションしていると、マネージャー層に向けて1on1研修を行っているが、座学・講義が中心となっており、どれだけ実際の現場に役に立っているか分からずなんとかしたいという課題を聞き、実際に現場のマネージャー層も部下とのコミュニケーションの取り方に悩んでいる方が多いことが分かった。
そんなことからAIを活用したロールプレイングでいつでも手軽に1on1トレーニングできることが特徴だ。今はまだ部下の性格は数パターンしかないが、それでも汎用的なスキルが身につくよう設計されているようだ。
1on1トレーニングで肝となるのは対話相手と解析方法についてだが、どのようになっているのだろうか。
鈴木
『対話相手については、他社技術と融合し、解析方法についてはリコーが長年培ってきた画像解析技術と言語解析技術でなかなか他社が真似できないレベルだと自負しています』
1on1で投げかけた言葉により柔軟に反応が変わり会話がスムーズに成り立たせる技術はかなり難易度が高くリコーで開発しようとすると長期間要するものであったようだ。
そこで、株式会社シルバコンパスの映像対話技術を転用し、マルチモーダルAIによりリアリティがあり即時レスポンスを可能とし、まさにびっくりするほど自然な対話を実現させた。
また、上司のうなずきや笑顔など非言語の振る舞いについては、画像解析技術を活用し、仮にマスク付きでも正確に検出できるようにし、1on1の対話の中で重要な傾聴・承認・質問に関わる言語情報については、言語解析技術により、結果として上司による部下へのコミュニケーションの関わり方がどの程度できているかを精度高く分析できるそうだ。
今後のチャレンジは何かあるのだろうか。
中川
『継続的に利用して効果を感じていただくようRPG的なゲーム要素も入れていきたいですね』
ただでさえ1on1含めてプレイングマネージャーの要素が増したマネージャー層は忙しくなってきている。
その中で自分の時間をさらに使っていただくためには楽しい要素も入れていきたいという考えである。
すでにリコーでは、他のサービスではあるが、Playful Workというゲーミフィケーションを応用し、仕事に対するスタックポイント(仕事を楽しいものととらえ直す上で妨げになる、仕事に対する現状の不満・信念・思い込み)を解消すればするほどゲーム内の王国が発展していくアプリを開発している。
まさに1on1は内省しながら上司の傾聴力、質問力、提案力を高めることで効果が上がり、それには継続力が欠かせない。継続をさせるためにはどうしたらよいかまで考えているリコーの姿勢には本気を見て取ることができるだろう。
後編では朝礼診断という次世代のコミュニケーションツールになりうるサービスインタビューをメインに紹介する。
■後編
④朝礼診断ソリューション
・開発ヒントは、複数のリーダーのオンライン会議に参加した際に、元気なチームがあり、成果が出ていた印象
(コロナ時期だったため、朝礼しか社員が顔を合わせるタイミングがない)
・技術要素は、複数人のチームで各個人の詳細に焦点を当てること、マスク着用時の笑顔判定
・改善要素は、コロナ終了し、出社が一般化した中での活用検討、技術チームではそもそもカメラオフのMTGが多いこと
③全体的な長期検討
・3年活動しているが広げるのに苦戦
・ゲーム要素を入れて使うのが楽しいことに変えていきたい
・日本⇒グローバル波及も視野に
株式会社リコー テクノロジーセンター
神奈川県海老名市泉2-7-1
htps://www.ricoh.co.jp