デジタルと人間性が融合する時代へ(後編) 「“はたらく”に歓びを」掲げるリコーの新たな挑戦 株式会社リコー 先端技術研究所 HDT研究センター
◆株式会社リコー 先端技術研究所 HDT研究センター
事業開発室 UX開発グループ 萩田 健太郎 (写真右から2番目)
2009年リコー入社。射出成型、レーザー設計、新規事業企画などを経験。現在はオンライン会議の場を利用してチーム力を強化する、リーダー向けのソリューションの企画/立上げを担当。
◆株式会社リコー 先端技術研究所 HDT研究センター
事業開発室 システム開発グループ 長能卓哉 (写真右端)
2011年リコーに入社。画像機器に関わるレンズ設計開発に従事。2020年より、はたらく人の価値創造を支援するHuman Digital Twin at Work関連領域のAI技術開発、システム開発を担当。
「“はたらく”に歓びを」を制定したリコーを技術で支える先端技術研究所の皆様に前編ではHDT研究センターの構想と1on1トレーニングについて語ってもらった。
後編では朝礼診断という次世代のコミュニケーションツールと今後の構想について迫る。
朝礼から始まるコミュニケーション改革
続いては、オンライン朝礼において、参加者の映像と音声データを取得し、その中から参加者のうなずきや笑顔、ファシリテーターの発話比率、全員の発言状況、感謝の言葉の有無を計測・解析し、チームとしての朝礼の点数と参加者個人としての元気度を可視化する画期的なソリューションについてのお話だ。
『最初は人事とディスカッションしながら求めているものを掴もうとしました』
そう語るのは萩田氏だ。
リコーはOA機器製造を始めとして光学技術や精密デバイス技術開発に強みをもつ会社である。萩田氏によると、そんな会社がデジタルサービスの会社への変革を2020年に掲げ、はたらく歓びを生み出すソリューション開発をするためにどうすればよいか戸惑い、まずは社内人事へ何度も打ち合わせを重ね、きっかけ作りを試みたのである。
『最終的なきっかけとしては、現場リーダーとの会話の中でリモートワークになり部下の働き方が見えないし、メンタル維持できているのか分からない。
唯一、朝礼だけ皆が顔を合わせる機会があるということが分かり、これは面白いなと。』
各社人事と打ち合わせしていたところ、特にリコージャパンの人事の皆が社員のやる気を引き出し、どのように働きがいを高めていくかということに熱い想いをもっていることを肌で感じ、リコージャパンの役に立つことをしようと考え、力を入れているリーダー教育という分野で何かソリューションが生み出せないかということで現場リーダーとも会話したという。
実際に会話してみて何か学びはあったのだろうか。
『各チームの朝礼に参加させてもらうと、活気があり、みんな笑顔で朝礼をしているチームがあり、そのチームは営業部門の中で非常に成績が良いチームでした。チームコミュニケーションを活性化することで、モチベーションが向上し、ひいては業績に繋がったら最高だなと思い開発することにしました』
開発をする上で苦労したことはあったのだろうか。
『朝礼で何をどう測ればよいかというのも分からず、朝礼を見たりリーダーと会話したりしながら手探りで進めていきましたので苦労だらけです。』
システム開発担当の長能氏は技術面での苦労もたくさんあったという。
『技術的には例えば、各人の音声と映像を誤認識することなく取得することには苦労しました。
なぜなら朝礼のようなオンライン会議では、複数人が参加し、カメラをオフにしたり、資料投影したりすることで、画面のレイアウトや状況が頻繁に変化するため、既存の録画映像では対応が困難だったからです。
また、マスク越しでも笑顔やうなずきを判定しなければいけなかったことも苦労しました。ずっと笑顔だと判定されていたり、逆に全く笑顔だと判定されなかったり最初は誤認識が多かったです』
前編で紹介した1on1トレーニングより前にコロナ禍にて開発したソリューションであり、マスクを前提としても笑顔やうなずきが正確に判別されることにこだわったのには確かに合点がいく。
どうやって困難を乗り越えたのだろうか。
『まさに正確に判定できるよう、データを集めることに尽力しました。男女や年齢問わず様々な方に取ってもらいました。当初は社内掲示板で呼びかけても全く反応がなかったので、直接1人1人に頭下げてお願いをしにいって協力してもらいました』
確かに商用利用できるデータがほとんどなく、大量に学習させることで精度が高くなるAIの仕組みを考えると社内人材にお願いするまでは想像つくが、ここまで地道に活動しているとは大変意外であり、リリースした時の喜びもひとしおであろう。
プロダクトについての今後の挑戦は何かあるか。
『継続的に利用してもらうようにするにはどうしたらよいか考えています。現在はまだ2週間~1カ月と短期でしか使ってもらっていません。今後はこのソリューションを使い続けていくことで個人やチーム全体の傾向がどうなっていくのか可視化したいと思っています。また、そこからどうアクションを採るべきかどうかまでサポートできるようにしたいですね。
更に、朝礼以外の様々なシーンでも活用できるように広げていきたいです。』
全世界の労働者に対する野心的な展望
2プロダクトを中心に見てきたが、将来的な展望はどういったものか。
『まずは日本を中心に展開を計画していますが、プロダクトの認知度はまだこれからだと思います。将来的にはグローバル市場に展開することを目指しており、文化的な背景の違いを理解した上でプロダクトを開発し、世界中の皆様に「”はたらく”に歓びを」感じていただけるようにしていきたいです。』
AI技術が発達し、業務の大半が自動化され、人にしかできない創造力を発揮できる未来のために様々なプロダクトを生み出そうとするリコーのHDT研究センター。
今後どんなプロダクトを生み出し我々に見せてくれるか、これからが楽しみである。