人的資本経営とは? 注目の背景やメリット・取り組み方法をご紹介
経営戦略というと、製品開発、販売計画、財務管理などに焦点が当てられがちですが、最近注目されているのが「人的資本経営」です。
企業の最重要リソースである人材を最大限に活用し、経営資源として戦略的に運用することで企業価値を向上させるというこの新しい経営手法について、本記事ではその背景やメリット、そして取り組み方を詳解します。これからの組織運営に必要な視点を得るため、ぜひ一緒に学んでいきましょう。
目次
人的資本経営とは
人的資本経営とは、これまでの資本中心の経営スタイルから転換し、人材の才能とスキル、その知識を新たな資本と見なす経営手法のことです。企業の中心軸は、単に金銭的な資本だけでなく、働く一人ひとりの能力や知識、スキルに焦点を当てます。人的資本の育成とその最大限の活用が、企業経営の重要な要素となります。
企業が競争力を高めるためには、従業員のスキル向上や能力開発に投資し、彼らに成長のチャンスを提供することが必要です。個々の人材の育成によって、組織全体で生まれる活力が増すことが求められます。さらには、各人が自己実現を達成できる環境の提供と、働き甲斐のある職場作りが取り組みの一部となります。これらにより、従業員の意欲向上や忠誠心の醸成を図ります。
「人材は最も価値あるリソースである」というスタンスをとった人的資本経営は、企業の力を強化し、経済的価値を創造するとされています。このような人的資本経営のアプローチは、企業が持続的に成長するための重要な手段となります。
(参考文献: 経済産業省「人的資本経営~人材の価値を最大限に引き出す~ 」)
人的資本とは
「人的資本」―この経済学的理論は単なる理論に留まらず、企業が真剣に注視すべき最大の資産です。
人的資本とは「ヒト(従業員)」が持つ価値、それが知識や技能、経験などです。これらは企業の競争力を高め、新たな価値を生む源泉となります。
人的資本は教育や研修によって得られる知識や技能を「形成的人的資本」、職場での経験や人間関係から学ぶ技能を「経験的人的資本」と呼ぶことで分類することもあります。
人的資本投資は従業員一人ひとりの能力を伸ばし、企業の全体的なパフォーマンスを高めるという戦略です。投資の効果を最大化するためには、従業員の能力を引き出すための組織環境作りも欠かせません。
一部ではAIやロボット技術の進歩が人的資本の価値を下げると言われていますが、その逆です。テクノロジーが進化するほど、その技術を生かすための人間の知識や技能が重要視され、人的資本の価値はますます高まっています。
企業が投資する資本には「有形のもの」と「無形のもの」があり、人的資本は無形資本の一種です。人的資本経営とは「ヒト(従業員)」が持つ価値を付加価値の源泉と位置づけ、従業員への投資を高めることで業績向上を目指すものです。
企業が公開する情報の中にも人的資本投資が含まれていますが、その具体的な項目は各企業で異なります。なお、政府からも人的資本に関する情報の公開が求められることがあります。
人的資本経営が注目される背景とは
人的資本経営が注目されているのはなぜなのでしょうか。その背景を解説します。
多様な人材・働き方
グローバル化や技術進歩といったビジネス環境の変化が、様々なバックグラウンドを持つ人材の活用による新たな視点や思考を重視するようになっています。また、一従来の働き方に縛られない多種多様な働き方が一般化してきており、このことにより人的資本経営が、組織の持続的な競争力を支える新たな管理手法としての注目を集めています。
これは、各個人の能力や特性を最大化し、最適な位置で働けるよう支援する組織運営が必要なためです。その結果、人的資本経営の重要性が一層強調されるようになってきました。
また、リモートワークやフレキシブルな勤務形態といった新たな働き方が普及する中、従業員がより自身の才能や能力を発揮でき、より生産的に働きやすい環境を作り出すことは、人的資本経営の観点からも重要視されています。
ステークホルダー
ステークホルダーたちの視点から見ても、人的資本経営は重要な傾向です。彼らは利益だけでなく、企業がどのように社会価値を創出し、そのために人的資本をどのように管理しているかを見ています。これが「人的資本経営」が強調される大きな理由です。
投資の世界では、「無形資産」が評価の要素として重視されつつあります。人的資本経営の情報開示が求められる時代となり、投資家やステークホルダーはこの視点を重視しています。
以上から、上場企業やIPOを目指す企業にとって、人的資本という視点を排除せず、その評価に取り組むことが企業の持続的な成長と価値評価につながることは明らかです。
世界的動向
先進国では多様な価値観が認められ、会社の競争力は変革の早さと同時に、新たな価値創造力へとシフトしています。
そうした中で、「人的資本経営」が重要視され、一人ひとりの社員が持つ能力を最大限に引き出すことで組織全体を発展させる手法として注目を浴びています。
さらに、SDGsの推進や企業のESG投資(環境・社会・ガバナンス)対応など、持続可能な社会構築に向けた動きが世界的に活発化しています。
その中で会社の社会的責任や働き甲斐、多様性を尊重する風土への重視が高まっており、「人的資本経営」がその一部を形成しています。このため、「人的資本経営」は更なる視線を集め、その先進的取り組みと成果に期待が寄せられています。
デジタル化
デジタル化が急速に進行する現代において、企業はAIやロボットによる自動化の影響を受け、競争力を持続させるための要素は従来の生産性や労働力から、イノベーションの可能性を具現化する人間固有の創造力や問題解決能力にシフトしてきています。このような変革の最中、企業の真の価値は物的資産だけでなく、人的資本を活用することに大きく影響させられるようになりました。
つまり、企業の戦略として重要となっているのは、従業員をただの労働力ではなく、組織活動の中核として、その知識や経験、スキルを最大限に引き出す人的資本経営です。このような視点を採用することで、一人ひとりの能力の最大化を促すことが可能になり、これによって組織全体の活力を保ち、企業の成長と長期的な業績向上に寄与することができます。
デジタルトランスフォーメーションの進行によって産業構造が変化する中で、企業は更なるチャレンジと改革を求められています。
この挑戦的な経営改革の中心的役割を果たすことが求められるのは“人”であり、そのために人的資本経営の基本原則である、「一人ひとりを最大限に活かす」視点が極めて重要であり、これが企業の持続的成長には欠かせないと考えられています。
企業が人的資本経営に取り組むメリットとは
人的資本経営に取り組むメリットは以下の通りです。
能力の可視化
人的資本経営に取り組む企業は、組織全体の能力向上と人材の資質を最大限に引き出すという意図を持っています。それを可能にする重要な手段が、能力の「可視化」であり、これは人材育成の一部とも言えます。
この可視化は、従業員それぞれの能力やスキル、知識、更には実績までをデータとして把握することによって実現します。一人ひとりの情報をきめ細かく把握することにより、その人材がどのように成長すればよいか、どの方向性を持った成長が可能かが明確になります。これが個々のモチベーションを向上させ、また適材適所の人材配置を可能にするのです。
さらに、この可視化によって、企業全体の能力状況も明らかになります。それにより企業自身の強みと弱点が把握でき、より適切な経営戦略を練ることが可能になります。その結果、組織全体の生産性向上にも繋がるでしょう。
従って、人的資本経営は能力の可視化により、個々の人材と組織全体、双方の具体的な成長の道筋を描き出すことができるシステムです。そしてその結果、組織全体が持続的に成長し、組織価値を高めていく起爆剤となるのです。
生産性向上
人的資本経営は社員それぞれのスキル、知識、経験を最大限に利用し、それを企業の利益増大に結びつける具体的な手法です。その最大のメリットとして「生産性の向上」があります。これはスキルの向上と組織全体としての体制作りを通じて実現します。
スキルの向上は、業務品質の確保と作業効率化を意味します。これにより社員一人ひとりの生産力が増し、それが全体の生産性向上に繋がるのです。
また、個々の才能や経験を組織全体で最大限に活かす体制を整えることで、全体のパフォーマンスを高めることが可能となります。個々の力を適切に見極め、位置づけて活用することが、組織としての生産性の向上に貢献します。
従業員エンゲージメント向上
企業が人材育成に注力することは、「従業員モチベーションの高揚」というメリットを生む一方で、それが「自分たちのスキルや知識が企業の成長のために活かされている」という確信を従業員に与えます。これは人材育成が、個々の能力と組織全体の向上を同時させるコンセプトであるからです。
人材育成の進行により、社員は自身の努力が会社の成長に直接影響を与えていると感じ、これにより自己実現の欲求も促進されます。この取り組み全体が社員の満足度と認識を向上させ、結果として社員のモチベーションを維持・向上させる効果をもたらします。
このような状態が生まれることで、職場の生産性や創造性が増し、さらには社員の定着率を高め、それに伴い人件費の削減につながります。
また、高いモチベーションを維持することが社会的評価の向上に繋がり、組織全体の競争力強化への有力なプラスとなります。
企業ブランディング
人的資本に重点を置く経営は、さまざまな利点を生む中で、「企業ブランディング」の向上という要素が際立って言えます。人的資本経営とは、すなわち全ての社員の可能性を最大限に生かし、個々の成長と共に組織全体の発展を目指す経営理念のことです。
この理念に照らせば、企業が積極的にこれを進めることで、労働環境の向上や社員の満足度の増加に繋がります。そしてその結果、社員からの好印象が推薦やPR活動に繋がり、企業のブランドイメージの向上や企業価値の潤沢化に貢献します。さらに、社員の快適さが高まることで企業全体のパフォーマンスを長期的に高める可能性があります。
人的資本経営を推進する企業は、求人市場での優秀な人材を呼び込みます。引き合いの強さが新規人材を引きつけ、企業全体の更なる発展に寄与します。これらのことから、企業が人的資本経営に前向きに取り組むことは、社内外における評価の肯定へと繋がるだけでなく、組織の未来を守り抜く重要な戦略なのです。
投資家からの評価の高まり
一流の投資家たちは、企業の価値を評価するときに人的資本経営を重視しています。人的資本経営に特別な関心をもっている企業は、財務だけでなく社会的な価値をも創出していると認識されます。その結果、これらの企業は投資の優先対象とされ、資金調達の機会が増えます。
この資金の増加により、企業はさらに進化し発展することが可能となります。また、新製品や新サービスの開発、新事業の立上げも堅実に進めることができます。人材に対する投資はさらに活発化し、これが生産性の向上や強固な企業ブランド形成につながるでしょう。人的資本経営は、このように企業の長期的な成長と価値創出に寄与します。
そのため企業は、投資家だけでなく社員や顧客、そして社会全体からの評価を向上させるために、人的資本経営を一層推進していく必要があるのです。
日本における人的資本経営とは
日本企業が人材を最大の経営資源とみなし、スキルや能力を最大限に活用し競争力を強化する人的資本経営について語ります。
現代の経済環境は、絶え間ない技術革新と情報革命により刻々と変化が続いています。しかしながら、「人」こそがビジネスの中心であり、労働人口の減少や社会環境の変化を見据えた企業は、従業員の能力を育成し活用することが重要であると認識しています。
人的資本経営では、従業員はその知識、技術、経験を評価され、それを組織全体で共有し、蓄積することで企業の成長を担う重要な要素となります。
企業はこの視点から人材の教育やトレーニング、評価や報酬制度の改革といった多角的な取り組みを行い、戦略的に人材を活用しています。
経営の肝となる”人”へのこの種の投資や焦点化が、組織全体の競争力を高め、持続的な成長、従業員の満足度向上、さらには社会的信頼の獲得につながるのが人的資本経営の魅力といって良いでしょう。
フレームワーク「3P・5Fモデル」とは
「3P・5Fモデル」とは、ビジネス分析や戦略立案のフレームワークで、企業の目標設定と問題解決に大いに役立ちます。それぞれの意味を以下で解説します。
【3P(Plan, Performance, Potential)】
経営目標とそれに対するパフォーマンス評価、未来を見通すポテンシャルの3つの観点に注目します。
計画(Plan)では、企業が立てる戦略やその目標、実現のための具体的な手法などが示されます。パフォーマンスはその目標達成度合いを評価し、ポテンシャルは現状から未来への成長可能性を探るものです。
【5F(Fact, Focus, Feature, First, Future)】
5Fは、3Pの具体的な戦略を導くために、Fact(事実)、Focus(焦点)、Feature(特徴)、First(優先順位)、Future(未来)という5つの要素を考慮します。
事実(Fact)は現状の算出や隠れた問題点の特定、焦点(Focus)は重要な問題の特定や解決のための主要項目の決定、特徴(Feature)は企業の優れた部分や競争優位性の特定、優先順位(First)は問題解決の優先度や重心の決定、未来(Future)は未来予測や企業の進むべき方向の決定に用います。
このように、「3P・5Fモデル」は経営を戦略的に考えるための有効なツールであり、それぞれの観点や要素が企業の分析や問題解決における大切な基礎となります。
「人的資本可視化指針」とは
「人的資本可視化指針」は、企業における人的資本、つまり社員一人一人が持つスキル、経験、知識といった形のない資産を数値化、そして視覚化できるような基準です。これは経済産業省をはじめとした関連団体によって推進されており、人材の能力の向上や、仕事の充実感、退職した人々の知識や経験の引き継ぎなど、企業価値を高めるために不可欠となります。
具体的には、スキル開発や社員の在籍期間、働き手の満足度を指標化し、それらを基に分析し評価することが奨励されています。さらにこれらのデータを経営戦略の一部として活用することで、企業は投資すべき部分や、働き手を満足させる政策をどのように適用すべきかということを具体的に理解することができます。
厳しい競争が続く中、企業は人的資本の価値を理解し始めています。「人的資本可視化指針」はその実現方法の一つであり、これが新たな企業価値評価の基準となりつつあることでしょう。
2022年8月には、「企業の人的資本の開示に関する指針」が公表されました。この指針は、以下のような人的資本の情報開示を交えたガイドラインを提供します。
例えば、人材育成における開示事項例としては、研修時間、研修費用、パフォーマンスとキャリア開発についての定期的なレビューを受けている社員比率、研修参加率、複数分野の研修受講率などがあります。
流動性の面では、離職率、定着率、新規雇用数・比率、離職総数、採用・離職コストなどが開示事項となります。ダイバーシティでは、属性別の働き手や経営陣の比率、男女間の給与差、正社員と非正規社員などの福利厚生の差、最高給与を受け取る人間の年間給与額のシェア、育児休業後の復職率や定着率などが開示事項として挙げられます。
海外における人的資本経営とは
各国で積極的に進められている人的資本情報の開示動向が、企業の世界的な実務に密接に関連しています。特に、国境を超えて事業活動を展開する企業は、現地の法律や文化に合わせた人材の確保や育成、そして配置が必要です。各企業がグローバルに展開していく中で、人的資本はますます重要な資源となっています。
ただし、明確なビジネスモデルを持つ企業でも、それが異なる国や地域で必ずしも適切に機能するとは限りません。これは、法律や文化の違い、地域独特の特性を理解し、それに適応できる人材を育成し配置するためです。
さらに、地元の人材と企業の考え方や価値観を一体化させることで、より大きなイノベーションを生み出すチャンスがあります。その達成には、人的資本のマネジメントが欠かせません。
結論として、人的資本のマネジメントとは、海外においてただ人材を獲得するだけでなく、適切な人材を戦略的に組織に活用し、企業文化を現地に共有し統合することを指します。海外市場で成功を収めるためには、地域特性への適応力、組織力と人的資源のバランスが重要となります。
人的資本経営で企業が開示すべき情報とは
2023年3月期の有価証券報告書から、上場企業約4,000社へと人的資本開示が求められるようになりました。これには、人材育成方針及び社内環境整備方針、納得的で評価可能な業績指標やその目標などについての詳細な情報が含まれることが予想されます。
この情報提供は、企業の持続的な競争力強化のために重要です。具体的には、人事評価制度や教育制度、キャリア開発支援などの人材育成の戦略や、従業員の健康と福利厚生、ダイバーシティの管理に関する情報を明確にすることが不可欠です。
また、業績指標として「人的資本投資回収率(HCROI)」などの数値も提供すべきとされています。これらの情報が明らかになることで、投資家は企業の経営状況をより評価しやすくなるだけでなく、社員自身も自分の働く価値と役割を理解しやすくなり、自己のスキル向上への推進力にもつながります。
しかし、パーソル総合研究所の調査によれば、経営戦略と人材戦略のギャップが大きく見受けられるという結果が出てきています。その原因は様々で、経営層と人事部門の見解の不一致、人事部門が経営戦略の策定に関与できていないなどがあげられます。
これらの問題解決のためにも、企業は自社の状況を客観的に評価し、過去の取り組みや現在の課題を把握し、将来の目標を設定することが必要です。さらに、全ての従業員に共通の組織目標を理解させ、データを増やすことを優先せずに戦略の乖離を防ぐのが重要となります。
人的資本経営を実践する方法とは
人的資本経営を実践する方法を詳しくご紹介します。
目標設定
人的資本経営は、全社員のパフォーマンスを最大限に引き出すための経営手法です。その具体的手段の一つが、目標設定にあります。
目標設定は、社員の業績を量的に評価するための要素で、これにより、社員個々の意欲を高めることが可能です。その際にSMART原則(具体性、測定可能性、達成可能性、関連性、期間制限)から目標を設定します。その結果、仕事に対しての明快な方向性と意欲を創出することが可能となります。
スキル向上や新たな経験の積み重ねのためには、チームや個々の目標を具体的に提示し、それを共有することが重要となります。目標設定を通じて人的資本経営を推進すると、全ての社員が成長し、組織全体の業績の向上に貢献しながら、それぞれのキャリア形成も実現できます。
まずは経営戦略と人材戦略を同期させることが必要となります。パーソル総合研究所の調査によれば、約六割の上場企業が経営戦略と人材戦略を連動させていると回答しています。
しかし、その一方で経営陣と人事部門の意識のズレが大きいことが明らかとなりました。経営戦略と人材戦略の間に乖離が生じる原因として、経営層と人事部門の間の認識の不一致が挙げられます。
具体的には、経営計画に関与できない人事部門、経営層の指示のみを反映して人材戦略を立案する人事部門等が存在します。そのため、最初に目指す姿を明確にし、その上で自社を客観的に分析することが必要となります。
これまでの取組みや現在の組織状況を把握することで、目指すべき状態との乖離を認識し、改善策を講じることが出来ます。
そして組織への理解を深めるためには、人材データの可視化や共通言語の使用が有益です。しかしながら、それらの情報をどのように収集し、どのように分析するのかの共通認識がなければ意味がないです。そこで、データの収集が先走らないように、組織が目指すべき方向性を明確にする必要があります。
KPIの設定・施策考案
企業の成長の原動力となる人的資本。その次元において、いかに従業員の能力を伸ばし、最大限に活用できるかという課題は、事業発展に欠かせない要素となっています。その手法として注目されるのが「人的資本経営」ですが、その実施にあたっては「KPIの設定と施策考案」が重要となるわけです。
人的資本経営とは、組織内の一人ひとりの持つ能力を最大限に引き出し、組織の成長に繋げることを目指す経営方針です。
その要となるのがKPI(Key Performance Indicator)です。各従業員が目指すべき目標を数値化し、その達成度を測ることで、個々の成長を目視できるようにします。また、KPIを通じて、施策の有無を含む評価基準を見える化します。
施策を策定する際には、従業員のスキルアップを促す研修や働くことの価値を確認できる環境整備などが必要となります。そして、能力の伸長とともにKPIを達成するためには、目標達成のための問題解決力、成長する意欲が求められます。
結局のところ、人的資本経営は経営者が従業員のことを考え個々の成長を促すことから始まります。KPIの設定と施策考案は、その過程で欠かせない要素です。
KPI設定にあたっては、未来志向、経営戦略との整合性、自社の独自性という3つの視点を持つことが求められます。数値だけでなく、経営の方針や心構えを投資家に伝えることが、信頼性を生み出すのです。
ただし、全ての施策にKPIを設定する必要はありません。それらはあくまで議論を進めるための手段に過ぎないからです。重要なのは、ツールや情報の開示がそのまま目的化することを防ぎ、適切な使い方をすることです。
モニタリング・改善
人的資本経営とは、組織の成長の原動力である「人」を効果的に活用することを基軸とした経営手法です。その実現方法として注目すべきは、監視と改善に伴う循環サイクルです。
まずは、「監視」が重要な要素となります。これは従業員のパフォーマンス評価や人事評価を厳格に実施することで、各個人のスキルや能力の把握を可能とし、スタッフへの投資や育成、配置をより効率的に行う手段です。具体的には、定期面談やフィードバック、スキルマップ作成などが対策となります。
その次に、収集したデータに基づいて「改善」を進めることが重要です。各従業員の稼働能力や経験を活用し、業務改善や新規事業への活用、また、弱点や課題の洗い出しと教育・研修での再研修も重要視しています。
この監視と改善のサイクルが、人的資本の価値を最大化し、組織全体の生産性を向上させます。人的資本経営の一番の特性は、企業利益の追求だけではなく、従業員の個々の成長や働きがいの向上にも直結する点にあると言えます。
最終的には、施策の実施とその効果の確認が重要となります。人事データの整理、エンゲージメントサーベイ、KPIに基づいた議論など、様々な手法を用いて施策の成果と目標達成度を検証します。
例えば、有給休暇の取得率や研修の受講率などの定量的な指標は、システムを活用して人事データを整理することで検証できます。また、給与や福利厚生、職場環境に対する満足度は、エンゲージメントサーベイを用いても良いでしょう。
このように、施策の実施とその効果の確認を行いながら、組織の成長と従業員の働きがい向上を継続的に追求することが、人的資本経営の本質です。そしてそのサイクルは、成果と課題を改めて見直し、新たな施策を練る再計画へとつながるPDCAサイクルとして、組織全体での取り組みを促進します。
まとめ
「人的資本経営」は、人材を最大限活用する経営戦略性で、生産性向上や組織の持続的成長を実現します。その背景には、急速な技術進化や働き方改革があり、企業の競争力強化やイノベーション創出に欠かせません。
その取り組み方法としては、雇用の質や働きやすさの改善、社員教育やキャリア開発の投資、パフォーマンス評価や報酬制度の透明性などがあります。
よくある質問
人的資本経営の情報開示とは?
人的資本経営の情報開示は、企業が経営において採用・育成・活用している人材に関する情報を公にするプロセスです。これには以下のような要素が含まれます。
人材育成プログラムと研修: 従業員のスキル向上や専門知識の獲得のためのプログラムや研修に企業がどれだけ投資しているか。
ダイバーシティとインクルージョン: 性別、年齢、国籍などの多様性を尊重し、包括的な職場を構築するための取り組み。
働きがいの向上: 従業員のワークライフバランス、職場環境、労働条件などに関する取り組み。
雇用安定と福祉: 従業員の雇用安定措置や福祉施策に対する企業のアプローチ。
キャリア開発: 個々の従業員がスキルや経験を積むための機会や計画。
このような情報開示は、企業の透明性を高め、従業員のモチベーション向上や外部からの信頼構築に寄与することが期待されます。また、社会的責任(CSR)の一環としても位置づけられています。